国際共同研究(平成29年度)
アジアにおける「子どもの貧困」への支援の国際比較研究
―相対的・絶対的貧困を踏まえた「子どもの貧困」ソーシャルワークの展開に関する研究―
研究代表者氏名
社会福祉学部 教授 藤岡 孝志
研究課題
アジアにおける「子どもの貧困」への支援の国際比較研究
―相対的・絶対的貧困を踏まえた「子どもの貧困」ソーシャルワークの展開に関する研究―
研究結果の概要
本研究では、まず相対的な貧困と絶対的な貧困の概念的な関係性の理論的検討を行い、グローバルな観点からの貧困に対する対処の検討課題を検討した。そのうえで、貧困家庭支援におけるソーシャルワーク実践活動についての日本及び各国に固有な課題とグローバルな課題を整理し、「子どもの貧困」ソーシャルワークという新たな支援技術、および理論的な背景の再構築を吟味した。このような議論の中から、子どもの貧困対策に取り組む中で、特に「地域づくり」に注目し、様々なサービスが混在する「雑居性」のなかにこそ、子どもの貧困への対処の方略が見えてくることが期待されるとの問題意識を得た。また、「幸福」という概念が、貧困という状況とどう関係しているかにも、共同研究チームとしては注目した。これらのことを踏まえて、質問項目を作成し、海外及び国内においての調査を行った。
国際調査 諸外国の「子どもの貧困」、「生活困窮家庭」に関する文献研究をまえ、ネパール、ヴェトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシアの5か国の「子どもの貧困」の現状及び対策としての社会的な政策、支援実践の調査を行った。特に、地域づくりを通して、いかに、「子どもの貧困」に対処していくかに焦点化していった。対象者は主としてソーシャルワーカーであり、特に、特定地域での関わりを継続的に行っており、貧困地域において子どもたち(あるいは、地域における貧困家庭)を支えるコミュニティを構築している人に面接した。結果として、「子どもの貧困」の現状は経済的な理由もあって急激には変化しないものの、「子どもの幸せ」及びそれを構築・維持する仕組みとしてのコミュニティの在り方という観点からみると、『ソーシャルワーク活動』の意義は極めて大きく、各国の様々な取り組みを抽出することができた。
国内調査 対象地域は、本研究に関わる共同研究員にご協力いただける方々の中から選定した。実際に、「子どもの貧困」対策に関わっている方々を対象とした。具体的には、大阪西成地区の「子どもの里」、関東圏内のA地域での「子ども食堂」の構築過程、及びB県での活動などを対象とした。面接対象となる職種は、ソーシャルワーカーであった。長い年月をかけた子どもの貧困対策も、最初の一歩からすでに地域をしっかりと巻き込んでおり、その力を活用しながら発展、維持されていることが示唆された。また、支援構築の結果としての「子どもの幸せ感」が地域及び地域の住民を活性化することにもつながっており、貧困対策が、貧困にとどまらない成果を上げていることをうかがうことができた。
以上、国内外調査に共通して、日本を含めて、地域で生きている人たちの『雑居性』の中でできている様々な活動が、実は貧困対策というところにつながり、またそれが地域支援の中核を担う可能性があることが示唆された。ソーシャルワーク活動としてはそこを見据えてコミュニティ開発をしていくということが重要であり、その構築過程で子どもを取り巻く地域が活性化し、(子どもだけでなく)地域の一人ひとりの「幸せ」の構築に繋がることが期待されることも考察された。
このように、ソーシャルワークの国際新定義にも取り入れられている「地域固有の知」としての貧困対策・互助・救貧システムの活用をソーシャルワークの中にどう位置づけるのかを検討することは、欧米型の貧困への対処システムとは異なるアジア独自のアジア型ソーシャルワークの探求という点にもつながることが考察された。
研究成果の活用・提供予定
研究成果は、「国際共同研究事業報告書」としてまとめられた。今後は、学会、研究会などを通して成果を報告し、「子どもの貧困」ソーシャルワーク活動の蓄積を、今後の地域におけるコミュニティづくりに役立てていく。また、成果物がホームページを通して周知されることで、「子どもの貧困」の相対性、絶対性を踏まえた「子どもの幸せ」及びそれを構築・維持する仕組みとしてのコミュニティの在り方という観点からの『ソーシャルワーク活動』への関心がさらに高まることが期待される。また、本報告のテーマが継続していくことを願っている。