教養・福祉教育研究(平成29年度)

被災地サービスラーニングのリベラルアーツとしての意義

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 斉藤 くるみ

研究課題

被災地サービスラーニングのリベラルアーツとしての意義

研究結果の概要

2017年7月30日から8月3日、熊本の大地震被災地と水俣にて地震被災者および水俣病患者・体内罹患者との交流等を通して人権を考える研修を行った。これは参加者8名中、5名が障害をもつ学生であり、全員でお互いに助け合いながら学ぶことができた。多様な構成員のチームで天災・人災と人権の関係を考えることは精神の開放(リベレイト)であった。詳細については報告書に譲る。

また2017年8月21日~22日に学生17名が気仙沼市での子ども会活動に参加し、この全学生にアンケート調査を実施した。

被災地でのボランティア活動が学生達のどのような学びや成長につながっているのか、サービスラーニングの教育効果に関する先行研究と照らし合わせて考察を行った。サービスラーニングの教育効果については様々な先行研究があり、中里ら(2015)は先行研究の整理により学生に対するポジティブな教育効果について、初年次教育、教養課程と専門課程に分けてまとめている。これに基づくと初年次教育、教養課程における教育効果は、①学生が自信を獲得できること、②学習への動機づけ、③汎用的能力の獲得、④市民性の獲得。専門課程における教育効果は、①専門的スキルの獲得、②コミュニケーション能力の向上、③志望する専門職の役割の再認識である。

これらの教育効果と今回参加した学生達の声を照らし合わせると、本学で継続して行っている被災地での子ども会活動が、サービスラーニングの場としても一定の教育効果につながっていることが伺えた。被災した地域の方々にとってだけでなく、学生達の成長にとっても大切な機会になっていると言える。

ただし、活動を通して得られるものは多様であることが大切であり、特定の視点や考え方を押しつけるような活動になってはならないと考える。被災地で暮らす人びとの思いも様々であり、防潮堤の建設が必要だという人もいれば、反対している人びともいる。多様な経験を通して多様な価値観に出会い、自らの思考を磨いていくことによって、独善的でない主体性や協調性を獲得していくことが学生達の生涯を支えるものになると考える。こうしたことから、震災以降、学生達が丁寧に築いてきた関係性によるボランティア活動を今後も大学として支えていくことを大事にしたい。

中里陽子、吉村裕子、津曲隆(2015)「サービスラーニングの高等教育における位置づけとその教育効果を促進する条件について」『アドミニストレーション』第22巻第1号、熊本県立大学、pp.164-181

研究成果の活用・提供予定

熊本・水俣での活動においては障害のある学生がサービスラーニングに参加することは当然の権利となるように、様々な意味でバリアフリー化をするための試行となった。気仙沼での被災地ボランティアでは、長期的な被災地との関係性の重要さが示された。

サービスラーニングをリベラルアーツの視点で見直すことの意義は多様性を大切にすること、被支援者・対象者の文化的背景等を理解・尊重することにある。そのためには深い学びと長期的な関わりが重要である。詳細は報告書の形にして紀要にて報告する。

研究成果物