社会福祉実践研究(平成30年度)

地域における高齢者と子どもとの個別的世代間交流活動(里孫活動)に関する実践的研究

研究代表者氏名

通信教育科 講師 永嶋昌樹

研究課題

地域における高齢者と子どもとの個別的世代間交流活動(里孫活動)に関する実践的研究

研究結果の概要

本研究の目的は、個別的かつ継続的な世代間交流活動である里孫活動の効果を検証し、世代間交流を機軸とした地域共生社会の構築モデルを確立するために、まずは高齢者と子どもとが世代を超えて交流することの効果を、里孫活動に焦点を当てることにより明らかにし、さらに、その効果を高めるための具体的な方法を検討することであった。

里孫活動による「疑似的な祖父母-孫関係」が、高齢者の生活の質(QOL)を高め、その社会的役割を創出(再生)することができると考えたられ、また、子どもの「他者を思いやる心」を醸成し、地域社会の創生と活性化につながると考えられたからである。

はじめの計画では試行事業を行い、その取り組みを評価する予定であったが、当初に実施を依頼していた機関から、夏季(7~8月)は熱中症予防、冬季(10~2月)はインフルエンザ等の感染予防のために実施の同意が得られず、実施が困難であった。そのため、計画を里孫活動の背景を探る調査に変更し、里孫活動の意向と実施状況の調査、また、高齢化の倍化速度がわが国を上回る韓国における世代間交流の状況調査を行った。

活動の意向についての調査は、練馬区青少年問題協議会の協力を得て、同協議会の活動に際して作成されたアンケートの結果を集計,分析した。小学5年生から大学2年生までの47名から回答が得られた。

また、里孫活動の実施状況の調査では、全国の都道府県・市区町村社会福祉協議会から262件の回答を得た。

なお、韓国での調査では、高齢者施設2か所の見学により世代間交流活動の把握を行った。

これらの結果として、子どもの約64%に高齢者との交流意向があると推測されること、個別的な活動の実施件数は少ないこと、韓国(ソウル市)では同様の活動が行われていない様子であることが示された。

今回の研究結果を基に、今後についても里孫研究を継続していく予定である。

研究成果の活用・提供予定

今年4月に採択された科学研究費基盤研究(C)の予備研究として活用する。

研究成果は、今年度の日本社会福祉学会秋季大会、または日本老年行動科学会大会等での口頭発表を検討している。

研究成果物

手話のオラリティとアジアろうコミュニティでの社会貢献への応用

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 斉藤くるみ

研究課題

手話のオラリティとアジアろうコミュニティでの社会貢献への応用

研究結果の概要

オラリティとリテラシーという概念は手話という文字を持たない視覚言語には当てはまらないのか。この問いに答えるために、別々の国の手話者であるろう者を被験者として互いの手話のintelligibilityを調べ、iconicityとCL(手話独特のcrassifier)が手話のオラリティを実現していることを示すのが目標である。

フィリピンの手話を現地で収集し、巨大台風のときの話を手話でしてもらった。それ以外の話もろう学校のこどもたちに話してもらった。それをフィリピン手話のできる日本人に訳してもらった。また現地では日本手話を母語とするろう者を同行させて、会話がどの程度成り立つかを調べた。ネイティブサイナー同士であれば、ある程度の会話は成立した。(詳細は報告書・報告会にて発表する。)

子どものころからろうコミュニティーに入っていた人で、ある程度教育を受けている人は標準的なフィリピン手話で話すが、災害の様子を話す際にCLをふんだんに使っている。ろう学校の子どもの一部には、教育を受けることができず、成人になってから学校に入学した人も少なくない。そのような人は完全な手話ではなくホームサインに近い手話で、フィリピン手話者にも読み取りが難しいものもあった。しかしそのような場合もCLと呼べそうなものは多く発現し、音声言語の口話や、音声言語対応手話で教育された日本人の聴覚障害者とは違っている。(詳細は報告書・報告会にて発表する。)

教育で固定された手話はiconicityやCLが少なく、intelligibilityも低いという仮説は正しいと判断してもよいと思われる。

聴覚モダリティから視覚モダリティへの転換がオラリティからリテラシーへの進化に必須であるかのように考えられてきたが、そのことは言語の本質をつかみきれていなかったことを示すものである。(この点も詳細は報告書・報告会にて発表する。)

今回得られた結論は文科科研特分野基盤Bに引き継がれるため、さらに発展させてアジアのろうコミュニティのリスクコミュニケーション構築に応用したいと考えている。

研究成果の活用・提供予定

  1. 研究紀要に発表する。
  2. さらに進めるための研究費を科研特設基盤Bとして獲得しているので、その研究の基礎として使う。

研究成果物

研究報告書

介護老人福祉施設における介護ロボット・機器の導入に関する研究

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 壬生尚美

研究課題

介護老人福祉施設における介護ロボット・機器の導入に関する研究

研究結果の概要

本研究は、「介護ロボット」の介護現場への実用化・導入に向け、利用者及び介護者のニーズと使用状況の現状から、その課題を明らかにすることを目的とした。

2018年度は、実際に介護ロボットを導入している施設に訪問し(5箇所)、どのように活用されているのか実態を把握し(プレ調査)、東京都内介護老人福祉施設(482箇所)における介護ロボット・機器の実態調査(郵送調査)を行った。

プレ調査(訪問調査)

① コミュニケーションロボット(パウロ・ペッパー・sota)
介護老人福祉施設2箇所、通所介護事業所1箇所、②見守り支援システム(眠りSCAN)、介護老人福祉施設2箇所、③移乗・移動支援ロボット(マッスルスーツ)介護老人福祉施設1箇所、合計5箇所訪問。

その結果、①利用者の状態や介護職員の状況に合った適切な介護ロボットを選定することが大切であること(アセスメントの重要性)。②個々の利用者・介護職員のニーズに合わせた有効的な導入方法を検討する必要性があることを把握することができた。

介護老人福祉施設(郵送調査)結果

郵送調査は、回収率が低く(10.65%)都内の介護老人福祉施設の全体の傾向を把握するところまでは至らなかったが以下の実態を知ることができた。

  • 介護ロボット導入の経験が有る施設は19件(40.4%)、無い施設は28件(59.6%)。
  • 介護ロボット導入にあたりICT無線ネットワークの整備状況では、施設全体・一部を整備している施設は、73.5%だった。ICT 介護業務におけるタブレットなど端末の使用状況は、半数の施設で、1部から全体の職員で活用していた。
  • 移乗・移動(介護支援)機器として、マッスルスーツ・ハル・離床アシスト、リショーネなど、リハビリ(自立)支援機器として、愛移乗くん・Honda歩行アシスト、コミュニケーション/見守り支援機器として、PALRO・パロ・ Sotaや見守り用眠りSCAN、シルエット見守りセンサーなど、さまざまな機器を活用していた。
  • 適用する利用者や職員がいないこと、ICT無線ネットワークの整備環境、ロボットの性能などの理由により現在活用していないロボットもあった。
  • 施設の今後の介護ロボット普及に関する意見では、人員不足解消のため普及は不可欠であるが、費用が掛かる点、ロボットの性能に関わる課題など、さまざまな意見が出されていた。

まとめと今後に向けて

今回のプレ調査と郵送調査から、都内介護老人福祉施設の介護ロボット導入の一部の実態として、介護ロボットの効果・課題を把握することができた。これからの介護人材不足の現状から、介護ロボットの有効活用が叫ばれている。直接的に人が援助すべき内容とロボットが介入することで介護業務を軽減できる内容をすみ分け、安全に安心できる介護の環境作りをしていく必要がある。

今回の結果をもとに、今後更に実際に介護ロボットを活用している施設の状況を把握し、介護サービス体系における介護ロボット導入に関する利用者とサービス提供者の効果に関する研究を行い、介護現場におけるサービスの質的向上に資するように更なる研究を進めていきたい。

研究成果の活用・提供予定

  • 2018年度の介護ロボット・機器の導入に関する調査研究に関しては、日本社会事業大学社会福祉学会(2019年6月22日・23日)にて報告する。
  • 2018年度調査協力の得られ希望されている介護老人福祉施設に報告書を送付し(30施設)、今後の介護ロボット導入に関する資料として送付する。
  • 今回の調査に引き続き、調査協力が得られている15箇所の介護老人福祉施設に訪問し、更に介護ロボットの有効性に関して、導入課題と条件を探っていきたい。

研究成果物

Community-Based Practiceを実現させる重層的な地域ケア

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 竹内幸子

研究課題

Community-Based Practiceを実現させる重層的な地域ケア

研究結果の概要

平成29年度末、本学社会事業研究所共同研究事業において、清瀬市のご後援を賜り、『清瀬市"つなぎ""つむぐ"支援に関する調査』を実施した。本調査の目的は、清瀬市内のサービス提供機関や任意団体・関係者等を対象に、各関係機関・関係者が日頃利用者から見聞きしている生活課題、とくに、当該機関・関係者が直接対応する対象層や生活課題外ではあるが利用者の生活から派生している問題等、地域の潜在的ニーズを把握することであった。

本年平成30年度には、平成30年12月20日に、上記の調査報告とその調査結果を踏まえた話題提供によるワークショップを、以下の目的をもって開催した。

  • 制度上対応している各分野の関係機関・団体・関係者が対応している生活課題やその対応方法、連携・協働機関等を知る
  • 各分野の対象層や制度を越えてはいるが、把握あるいは対応している生活課題を掘り起こす
  • 「全世代・全対象型地域包括支援体制」に向けた、保健・医療・福祉等の専門機関・住民組織・民間企業等によるネットワークを連結させる、連携・協働へ向けた課題や方策を検討する

まず、「『清瀬市"つなぎ""つむぐ"支援に関する調査』報告書(簡易版)」に基づき、調査結果の概要について説明し、清瀬市住民の(潜在的)ニーズや関連諸機関・団体・関係者が認識する連携・協働の現状や課題等を共有した。

それを踏まえ、ワークショップでは、多分野の参加者により構成される小グループを編成し、「清瀬市"つなぎ""つむぐ"支援に関する調査」の設問4「あなた(事業所)が充分に対応できていない生活課題あるいは対応するサービスが無いといった生活課題について教えてください」の自由記述内容をカード化したものを使って生活課題を分類し、「すでに取組んでいること」、「これから取組むことが出来そうな支援」についてグループワークを行い、各グループの成果を全体で共有した。

研究成果の活用・提供予定

  • 報告書の作成とWeb配信
  • 本ワークショップを通じたつながりを活用し、「これから取組むこと」の具現化に向けたワークショップの開催

研究成果物