社会福祉実践研究(令和元年度)
調査観察研究を行う大学院生のための福祉分野臨床事例研究のガイドライン教育プログラム
研究代表者氏名
社会福祉学部 教授 後藤 隆
研究課題
調査観察研究を行う大学院生のための福祉分野臨床事例研究のガイドライン教育プログラム
研究結果の概要
研究スタートのため、大きく次の3つのポイントについて、既存関連文献資料の収集、主要な論点の洗い出しを行った。
- 調査観察研究に係る国際的なガイドライン、ルールの検討
cf.『臨床研究と疫学研究のための国際ルール集』『同part2』
『診療ガイドラインのためのGRADEシステム』 - アメリカ心理学会(APA)による推測統計に関する提言の検討
cf.Publication Manual of the American Psychological Association,APA、
土居淳子「帰納的推論ツールとしての統計的仮説検定:有意性検定論争と統計改革」『年報人間関係 学』13号、2010 - 質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis)の検討
cf.Scneider,Q.C.,Wagemann,C.,Set-Theoritic
Methods for the Social Sciences,Cambridge Univ.Pr.,2012 Rihoux,B.,
Ragin,C., Configurational Comparative Methods,Sage,2009
研究成果の活用・提供予定
「研究結果の概要」①~③の検討からえられた知見を、研究紀要に投稿する予定である。また、院生への講義等で試用する予定である。
研究報告書
介護福祉士・社会福祉士のダブルライセンスの意義と教育のあり方
研究代表者氏名
社会福祉学部 教授 森 千佐子
研究課題
介護福祉士・社会福祉士のダブルライセンスの意義と教育のあり方
研究結果の概要
【研究目的】
本研究の目的は、介護福祉士と社会福祉士のダブルライセンスが相互に役立っている内容を整理し、ダブルライセンスの意義および必要な学習内容について明らかにし、具体的な教育内容について検討するための基礎資料とすることである。
【研究方法】
四年制大学で介護福祉士と社会福祉士の両養成課程で学び、福祉専門職として従事している人を対象とし、機縁法によりインタビュー調査への協力を依頼した。同意が得られた9名に対し、インタビューガイドに沿って聞き取りを行った。
調査期間は2019年11月~2020年2月末である。インタビューで得られたデータは逐語録に起こし、質的帰納法を用いてカテゴリー化した。なお、本研究は、日本社会事業大学研究倫理委員会の承認を得たうえで実施した(承認番号19-0601)。
【結果】
対象者の勤務年数は1年未満が5名、1~2年2名、4~5年2名である。勤務先は介護老人福祉施設が7名、社会福祉協議会1名、福祉事務所1名であり、介護福祉職が8名、相談職は2名である。
ダブルライセンスの取得については、大学で両資格が取得できることを知り、「取れるなら取りたい」「仕事の幅や選択肢が広がる」「勉強したことが役に立つ」と考えたことが主な理由である。
ダブルライセンスを取得してよかったこととして、介護福祉職は、「制度の理解」「相談員の立場を考え仕事できる」「職場の選択肢が広がる」と回答した。相談職は「それぞれの専門用語の理解」「利用者の生活がイメージできる」「信頼が得られやすいと感じる」と回答した。
役に立っている介護福祉士の科目は、「介護過程」「コミュニケーション技術」「認知症の理解」「医療的ケア」などであった。社会福祉士の科目では、「相談援助技術・演習」「障害者福祉論」「相談援助実習」などが挙げられた。習得しておきたかった知識・技術は、「医療関連」「福祉用具」「多職種連携」「福祉レクリエーション」などであった。
養成教育に対する要望は、キャリアプランの課題、介護のイメージアップ、価値観や人と関わる際の基本的マナー、自分で課題を見つけて考え実践できる力や根拠を持って伝える力の養成などであった。また、施設での現任教育の課題、福祉機器の導入、外国人利用者の対応など、実践の場の状況や問題点が語られた。
【研究成果及びその利用上の効果】
インタビューからは、両課程での学びが他職種との関係作りや利用者理解に役立っており、活躍の場の広がりにつながると思われた。介護福祉士の科目では、アセスメント力やニーズ把握力が習得できたこと、コミュニケーション力、認知症高齢者への対応力が養われたことがわかる。社会福祉士の科目では、多くの事例に触れディスカッションやロールプレイを行ったことが、利用者理解などに役立っている。
一方で、習得しておきたかった知識や技術、職場および教育における課題も多く挙げられた。介護福祉士カリキュラム見直しの観点にある「チームマネジメント」「介護と医療の連携」が必要とされていることが示唆された。医療関連の知識については、両職種が必要性を感じている。福祉専門職として必要な知識を習得し、医療職と連携・協働する中で、必要に応じて医療職に的確にバトンタッチすることが重要であり、教育内容の精選が必要である。生活支援技術に追加された「福祉用具の意義と活用」が、実践の場で必要とされていることも確認できた。多職種協働については、社会福祉士養成のカリキュラム改正でも触れられており、両課程における課題であると考える。
今回は対象者が少なく、半数は勤務年数が1年未満であった。今後はインタビューデータをもとに質問紙を作成し、対象を広げて調査することで、さらに検討を進める予定である。
研究成果の活用・提供予定
- 第21回人間福祉学会大会 ポスター発表「介護福祉士・社会福祉士のダブルライセンス教育における課題」
- 人間福祉学会誌に投稿「介護福祉士・社会福祉士のダブルライセンス教育に関する研究」(仮題)
研究報告書
人権教育を主題とする教養教育の教材・教授法開発
研究代表者氏名
社会福祉学部 講師 大野ロベルト
研究課題
人権教育を主題とする教養教育の教材・教授法開発
研究結果の概要
- 共同研究者各自の専門分野に合わせた人権を主題とする教材(主に教養基礎演習の授業における副読本を想定したもの)作成を目的とした研究活動と並行して、初年次教育に関わる内外の大学の教材や参考文献の収集と分析を行なった。
- これまで教員からの「推薦図書」として情報提供に留めていた各分野の推薦書(学術的なものだけでなく、文学作品や映画を含む)を精選・購入し、「教養文庫」として学生への貸し出しを行うための準備を進めた。
研究成果の活用・提供予定
本課題は初年次教育の全体を包摂する課題であり、専門の異なる教員間での意見集約を慎重に重ねる必要があるほか、上述の「教養文庫」の活用の結果を分析するには、計画を二年間にわたり運用することが現実的であると判断し、2020年度の同名研究課題(研究代表者、相原朋枝准教授)を立案、採択された。
すでにある程度まで研究の進んだ事項に関しては、教材としてではなく、その作成に資する論文・研究ノートとして、課題に参加した所員の連名で本学紀要に発表予定である。
研究報告書
介護サービス体系における介護ロボット導入に関する利用者とサービス提供者の効果研究
研究代表者氏名
社会福祉学部 教授 壬生尚美
研究課題
介護サービス体系における介護ロボット導入に関する利用者とサービス提供者の効果研究
研究結果の概要
【研究目的】
本調査は、介護老人福祉施設における介護ロボット導入の実状を明らかにすることによって、今後の未来介護の質を図るために、利用者とサービス提供者の双方から介護ロボットの効果的な導入方法を探る基礎資料とすることを目的とした。
【研究方法】
- 東京都内全介護老人福祉施設において、2019年2月に「介護ロボット導入に関する」郵送調査を実施した施設の中で(2018年度報告参照)、訪問調査協力の連絡があり、電話にて承諾を得られた介護老人福祉施設11ヶ所を対象とした。調査項目は、「介護ロボットを導入しようとしたきっかけ」「現在の介護ロボットの使用状況と効果・課題」「途中で中止した介護ロボットとその理由」などインタビューガイドに添って調査した。その後、実際に介護ロボットを活用している場面について見学した。調査期間は、2019(令和元)年7月から12月末まで。日本社会事業大学社会事業研究所研究倫理委員会による審査(19-0203)を受けて実施した。
- PALRO(パルロ)の有効性の検証
パルロを3ヶ月間(2019年10月~12月)レンタルしてその機能を調べ、グループホーム、特別養護老人ホーム、地域ふれあいサロンで、パルロとコミュニケーションの交流を図り、その時の利用者の様子を調べた。
【結果】
- 研究方法①
各施設は、介護職員の負担軽減、持ち上げない介護(腰痛予防)、国の補助金の活用などをきっかけに活用している。
ロボット機器の活用は、介護職員支援装着型ロボット(6件)、非装着型ロボット(7件)、見守りセンサー(7件)、コミュニケーション型(5件)、自立支援型(2件)、情報機器(2件)だった。 装着型は、装着の時間、重さ、介助のしづらさ、体形に合わないなどの課題があった。非装着型は、利用者に合ったものは有効である。見守りセンサーは、配線等の課題があり、コミュニケーション型は利用者反応が良く有効であるが管理・費用面で課題が挙げられた。情報機器は連絡共有がその場ででき有効だった。簡単に設定でき操作でき、コンパクトで軽量化、低コスなどを課題としていた。今後は、転倒予防などリスクマネジメントに役立つロボットや、記録に関するロボットを望んでいた。 - 研究方法②
コミュニケーションロボットは、利用者と介護職員を介して楽しい雰囲気を創りだす役割を担っていた。
【研究成果及びその利用上の効果】
訪問調査より、我が国の今後の超高齢社会を見据えて、介護ロボットの実用化・導入を推進していく必要がある。しかし、介護ロボットの性能と環境、費用と管理等が課題として挙げられており、その普及には至っていない実状が明らかになった。また、次世代コミュニテーションロボットPALRO(パルロ)についても同様な課題が挙げられていた。実際の活用場面では、利用者に対して有効であることが示唆された。介護ロボットの導入に際し、現状の課題を積み上げ、更に介護現場に即した効果的な介護ロボットを発展して行く必要がある。今後は、介護業務の効率化、介護の根拠のデータ化、介護記録の簡略化、連絡・報告・相談などのシステム化を図ることが課題であり、介護人材不足の状況への対応と、介護専門職として自信と誇りをもって行えるシステムを構築していく必要がある。
研究成果の活用・提供予定
- 2020年度日本老年社会科学会第62回大会(6月6日、7日)にて「介護老人福祉施設における介護ロボット導入の現状と課題-訪問調査の結果から-」抄録学会誌発表。
- 2020年度第21回人間福祉学会大会:11月(未定)「コミュニケーションロボットの有効性に関する研究」ポスター発表。
研究報告書
慢性疼痛におけるヘルス・ライフ・リテラシー概念構築に関する研究
研究代表者氏名
社会福祉学部 教授 小原眞知子
研究課題
慢性疼痛におけるヘルス・ライフ・リテラシー概念構築に関する研究
研究結果の概要
【研究目的】
慢性疼痛があっても、先を見越した行動が取れ、自信を持ち、活性化された自己像へ転換を図り、自らの痛みとそれに関連した生活全般のマネジメントが行えるようにリテラシーのあり方の概念構築に関する研究を行うである。このリテラシーの考え方は、情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力であり活用するための知識、意欲、能力であり、それによって日常生活において、自らが判断し、意思決定を行い、生涯を通じて生活の質を維持・向上させることができるものである(European Health Literacy Consortium)と定義している。
本研究では、慢性疼痛を抱えている方々を対象として、就労状況と課題を明らかにする。まずは現在、皆様の慢性疼痛を抱えながら就労をされている状況や職場での課題、本人の努力や工夫などについてお話を伺い、ヘルス・ライフリテラシー研究の基盤を構築を図るものである。
【研究方法】
インタビュー調査を実施した。実施場所は、神奈川県(2名)、東京都(2名)、京都(1名)滋賀県(1名)、岐阜県(1名)、島根県(1名)の合計8名である。インタビュー内容はICレコーダーで録音して、逐語録を作成して分析を実施した。また、横浜市立大学病院、滋賀医科大学病院、島根医科大学病院の慢性疼痛、又はペインクリニックの教授と専門的知識の提供を頂いた。
【研究結果】
慢性の痛みは就労問題に大きく関与していた。特に患者の語りから3パターンに分けられた。①痛みと折り合いをつけながら、今の仕事を継続している者、②やむを得ず現在の仕事の継続を断念した者、③自分にあう仕事を模索し、可能な仕事を見つけた者である。一方、職場内不適応、精神的負担、離職、解雇問題が発生していた。
研究成果の活用・提供予定
- 2020年度文部科学省助成金基盤Cに生かせるように、研究を発展させていくことが、最大の目的である。
- 2020年度慢性疼痛学会の発表、日本保健医療社会学会への発表、日本医療社会福祉学会での発表を予定している
- 本学学内雑誌の論文投稿を予定している。