お知らせ
学長メッセージ ~旅立ちの日に~
2020.03.13
日本社会事業大学社会福祉学部・大学院社会福祉学研究科・専門職大学院・通信教育科を巣立っていく皆様方に、万感の思いを込めて、お祝いの言葉を捧げさせていただきます。
本当におめでとうございます。
このお祝いの言葉は本来であれば、皆様方の輝く瞳に囲まれながら、卒業式という式典を挙行して皆様方にお伝えする言葉です。しかも、卒業式は皆様方の学業成果を称讃し、学位記等を授与する皆様方にとって掛け替えのない大切な儀式です。それにもかかわらず今年度の卒業式の中止を、断腸の思いで決断いたしました。
その理由は現在、新型コロナウイルスによる未知の病に、日本というよりも人類全体が襲われているからです。新型コロナウイルスは科学的にその正体が解明されているわけではありませんし、予防法も治療法も確立しておりません。そうした場合には感染を封じ込めなければならないのですが、既に日本では複数地域で感染経路の不明な患者が発生し、封じ込めが有効に機能しているとはいいがたい状況にあります。
こうした危機的現実を眼前にして、希望に胸を膨らませ、日本社会事業大学から新しき生活へと旅立つ、皆様方の生命と健康を最優先に考えて卒業式中止を決定いたしました。寛容なご理解を賜われれば幸甚に存じます。
皆様方が旅立とうとしている社会は、新型コロナウイルスに象徴されるように、方向性を見失って混乱しています。人間は愚かにも自然によって生かされているという真理を忘れ、自然破壊によって自らの生命を消滅させるという愚行を繰り返してきました。野ネズミに寄生していたペスト菌を自然破壊によってもらい、14世紀にはヨーロッパで大流行をして黒死病として恐れられ、ヨーロッパの人口の三分の一が失われたといわれています。
しかし、人間は自然だけではなく、人間の社会によっても、つまり他者との絆によっても生かされていることを忘れてはなりません。ところが、人間は自然破壊だけではなく、人間の絆をも破壊しつつあります。そのため身体的病理だけではなく、いじめ、虐待、ひきこもり、依存症などといった社会的病理現象が噴き出てしまっています。
とはいえ、皆様方が旅立っていく社会が混迷し、方向性を喪失しているということに、皆様方は決してたじろぐ必要はありません。というのも、社会が混乱し、迷走しているということは、日本社会事業大学を旅立っていく皆様方が温かい手を差しのべてくれることを、今か今かと社会が待ち望んでいることを意味しているからです。
日本社会事業大学で学び合った皆様方は、愛の力で他者に奉仕する道を見い出した者こそ、幸福の青い鳥と出会うことができると確信しているはずです。日本社会事業大学を旅立ったことを誇りに、未知の病に脅え、冬枯れの森のようになった社会に、皆様方が希望の光を灯す使命を果されることを確信し、お祝いの言葉といたします。
令和2年3月13日