社会福祉実践研究事業(平成28年度以前)

平成28年度

超高齢団地における介護・生活支援ニーズに関する研究:住民の力を活かした生活支援に向けて

研究代表者氏名

社会福祉学部 講師 倉持香苗

研究課題

超高齢団地における介護・生活支援ニーズに関する研究:住民の力を活かした生活支援に向けて

研究結果の概要

本研究では、以下2点を中心とした研究をおこなった。

1:インタビュー調査の実施

平成27年度に実施した滝山団地住民の生活支援に関するアンケート調査結果を踏まえ、インタビュー調査を実施した。具体的には、平成27年度に実施したアンケート調査において、生活支援および終活に関するインタビュー調査に対する協力者を募った。そしてその中から①要介護認定を受けているまたは障害者手帳がある、②健康状態が「悪い」と回答している、③外出頻度が少ない(週1回以下)のいずれかに該当した協力者から、改めて同意を得た。その結果、高齢者を中心に10名(男性7名、女性3名)に対してインタビュー調査を実施することができた。調査期間は平成28年9月から平成29年1月であり、平均年齢は74.7歳であった。

調査結果の概要について、主に以下6点を報告する。

  1. 現在の状況
    何らかの疾患を抱えているものの、自ら買い物に行き掃除をするなど(2名については、家族やヘルパーの手伝いが部分的に必要)、現時点では団地で生活することができている。
  2. 生活の困りごと
    エレベーターが無いため将来が不安であること、近隣との付き合いがほとんど無いこと等が挙げられた。
  3. 交流について
    近隣住民との交流については、同じ階段または棟内での交流(5名)の他、団地内の仲間との交流(1名)が挙げられたが、交流が無い(1名)という回答もあった。
  4. 近隣住民に対する頼みごとについて
    近隣住民に対する頼みごとについては、頼まない(頼みにくい)が多かった(6名)。その理由として、家族に頼みごとをするため頼まない、関わりたくない、干渉されたくないなどが挙げられた。
  5. 団地情報の入手先
    多くが、団地の速報(ニュース)や管理組合からのお知らせ等を通じて情報を入手していた(9名)。近所の人とのお喋りから情報を入手しているという回答もあった(1名)。
  6. 終活について
    全員がこのまま住み続けたいという希望を抱いているが、階段昇降が困難になった際のことを考え、エレベーターがある場所への転居や1階への移動などを検討したことがあるという回答もあった。また、最期を過ごしたい場所については、多くが自宅を希望していた(7名)。

※インタビュー調査結果の詳しい分析については、今後継続して取り組む予定である。

2.ダイニングカフェ滝山における学生ボランティア活動

平成24年にオープンした「滝山あんしんつながりの家」に設置されている「ダイニングカフェ滝山」において、32日間、延べ68名の学部生や院生がボランティア活動を行った。

研究成果の活用・提供予定

  1. 滝山団地自治会への成果の提供:報告書など成果をフィードバックし意見交換を行う。
  2. 国土交通省やUR都市再生機構への研究成果の提供:東日本賃貸住宅本部および本社ウエルフェア推進本部に対し成果の提供と意見交換を行う。
  3. 学会等での発表:学内学会発表や学術誌に投稿する。
  4. 学部・大学院教育への活用:学部授業および大学院研究フィールド等活用する。

研究成果物

地域ケアの質向上を目指した、多職種連携による人材交流基盤の構築~介護系学生の訪問看護ステーションでの実習体験の試み~

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 佐々木由惠

研究課題

地域ケアの質向上を目指した、多職種連携による人材交流基盤の構築~介護系学生の訪問看護ステーションでの実習体験の試み~

研究結果の概要

本研究は、地域完結型医療における多職種連携及び地域完結の統合的能力を備えた人材育成を目的とした取り組みである。研究チームは、医療・介護連携における協働促進のための認知スキーム・思考プロセスの十分な蓄積があり開発済みの連携支援方法を応用し実践的な活用を目指した。 本研究により、①実習生の実習前後の思考の変化②その変化はどのような展開をしているのか③多職種との思考の違いを学生は明確に把握できていたのか④指導者が指導の意図をリフレクション時に明確に実習生に伝達できていたかが明らかになった。

分析の結果、分類を指導にそった分類定義にすることで、実習生のケア場面における思考を寄り詳細に把握で詩指導に反映できる。構築のあり方について、指導上あるべき形態を設定することで、実習生のリフレクション効果が高められる。報告文に比較し、実習生各人の思考が把握しやすく、より具体的で客観的な指導を可能にする。思考スキームを分節化、類型化、構築の類型などをリフレクションでワークすることで、試行の理解が深まることが想定できた。

研究成果の活用・提供予定

  • 学生が、多職種連携のリーダーシップをとっていけるように、介護教育の中で活用する。
  • 外国人介護人材育成に活用し、安全なケアが行われるために、思考スキームを検証する。
  • 地域包括ケアシステムにおいて、多色主観連携をスムーズにするための研修ツールとしていく。

研究成果物

児童養護施設・乳児院におけるインシデントスタディ

研究代表者氏名

社会福祉学部 准教授 有村大士

研究課題

児童養護施設・乳児院におけるインシデントスタディ

研究成果物

平成27年度

超高齢団地に居住する要支援者の生活支援に関する研究

研究代表者氏名

社会事業研究所・通信教育科 特任准教授 大島千帆

研究課題

超高齢団地に居住する要支援者の生活支援に関する研究

研究結果の概要

超高齢団地における地域包括ケアシステム構築への示唆を得るため、平成27年度は、滝山団地住民の生活支援および介護ニーズの把握を行う「滝山団地の住民の生活に関する調査」を実施した。

調査は、平成27年1月~2月に実施した。滝山団地に居住する全世帯3010世帯(空き室を除く)に自記式の調査票を配布し、郵送および自治会ポストで回収した。調査項目は、世帯の状況、健康状態、外出頻度、認知症や子育て支援に関する意識、終活に関する意識等とした。

686通を回収し、回収率は、22.8%であった。

回答の得られた世帯のうち、約75%は65歳以上の高齢者が世帯主であり、約8割を1人世帯と2人世帯が占めていた。賃貸と分譲の比率は、概ね4:6ほどの割合であり、これらは、平成25年度に本学が実施した全戸調査の回答と大きな変化は見られなかった。

また、子育て支援に関する回答者が少なかった一方、「認知症」や「終活」への関心は高いことが示された。

研究成果の活用・提供予定

  • 学会における研究報告
  • 本学紀要への投稿

研究成果物

平成26年度

超高齢団地に居住する高齢者の生活支援に関する研究

研究代表者氏名

社会事業研究所 特任准教授 大島千帆

研究課題

超高齢団地に居住する高齢者の生活支援に関する研究

研究結果の概要

本研究では、下記の3つの研究・活動を中心に行った。

  1. 平成24年からオープンした「滝山あんしんつながりの家」の「ダイニングカフェ滝山」で約20名の学生や院生が土曜日を中心として、ボランティア活動を行った。
  2. 平成25年に実施した「滝山団地における暮らしに関する全戸調査」について居住・生活支援ニーズが高いと考えられる要介護・要支援者の現状について分析を行った。その結果、要介護認定者では通院や買物、障害者では家計に関する支援ニーズが高いこと等が示された。
  3. 具体的な居住・生活支援に関するニーズを明らかにするために、高齢者を中心とした滝山団地住民6名に対し、インタビュー調査を行った。その結果、通院や買物への支援ニーズは高く、これらに対しインフォーマルな社会資源を活用しながら生活している実態が明らかになった。また、団地内外を問わず地域住民が高齢者していること、要支援になる前段階の支援の必要性が示唆された。

研究成果の活用・提供予定

自治会新聞たきやま誌上「滝山団地での生活に関する調査」結果報告を連載(平成26年6月〜)を行ったほか、国土交通省住宅局およびUR本社および東日本支社ウエルフェア担当へ調査結果の提供と意見交換を行ってきた。今後は、報告書、論文学会発表を通じて研究結果を随時報告する。

研究成果物

福祉施設におけるスーパーヴィジョンのあり方に関する研究

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 藤岡孝志

研究課題

福祉施設におけるスーパーヴィジョンのあり方に関する研究

研究結果の概要

本研究は、社会福祉施設におけるスーパービジョンのあり方に関する研究を掘り下げていった。SVユニットの研究活動の一環としても位置付けるものである。今年度は、児童養護施設でのアンケート調査の中で、特に、SVに関する自由記述のカテゴリー分析を詳細に行った。

分析の視点は、SVの内容について、スーパービジョンは効果があると回答した内容、バーンアウト予防のための工夫、関わりが困難な子どもに関わる職員への支援、職員の傷つきや疲弊の実態、職員の疲弊に対する施設の対応、SVに求められる資質、スーパービジョン体制をよくするために必要なことであった。ここでは特に、SVの関わりと資質について興味深い結果が得られたので報告する。

SVにどこまでかかわってもらうか

スーパーヴァイザーは施設の外部の人物か、内部の人物かを訊ねたが、さらに、両者ともに「どこまで関わってもらいたいのか?」を自由記述により訊ねた。「内容を分析した結果、16のサブカテゴリと6つのカテゴリーを抽出した。その結果の内容を以下に示す。

「どこまで関わってもらいたいか?」という質問は、SVという場への期待を表す一方で、現場からのSVへの限界を示すことにもなると思われた。結果では、『スーパーバイザーの意見は絶対と言う事ではなく、あくまで一つの視点提供という前提』、『各職員が外からの意見に振り回されないように』という意見があげられたように、SVという場は、〈客観的な視点〉や、〈示唆を受ける〉場として【新たな視点を提示】されることに意味があり、逆にそれ以上の関わりはマイナスになるケースもあるという意見があがった。それに関連して、【適切な距離を保つ】というカテゴリーにまとめられたように、SVという場に〈依存〉しすぎることの弊害はあるようである。そのために、SVは本来の意味として、【支援内容の検討】のように、個別のケースの関わり方のコンサルテーションや、アセスメントを重視するという意見が多くでている。

そのような関わり方があげられる一方で、やはり生活施設という性質上、SVにも【通常業務全般】に関する支援、〈職員のメンタルヘルス〉やヴァイジーが〈求めていることに柔軟に把握し対応〉してほしいという姿勢である【職員の状況把握】という支援、〈施設運営〉や〈危機管理上の問題点への気づき〉といった【施設運営・管理】全般にも関わって欲しいという意見もあがっている。この設問は、現場の風土によって回答に幅がでたものと考えられる。

SVに求められる資質

スーパーバイザーに求める資質について自由記述から以下のような興味深い結果が得られた。スーパーバイザーに対する期待の大きさがうかがえる。

分析の結果では、7つの【カテゴリー】22の<サブカテゴリー>が生成された。その内容を提示する。

まずは、SVの基本とも言える【客観的視点】があげられる。これには『施設理念、運営方針を理解の上で客観的に施設全体を見られること』という意見もあるように、<客観性>とは、個人・ケースにとどまらず、施設や運営方針全体を俯瞰したものである。それに伴い【児童養護への現状理解の深さ】もあげられた。特徴的な<児童への理解>はもちろん、<児童養護への理解>という現場そのものへの理解も資質として求められている。

【職員育成・指導への意識の高さ】という視点も抽出された。難しい現場であり、離職率も高い。だからこそ、<人材育成への意識>が求められている。また、<実際のケアが見せられる>、<リーダーシップ>というような実践力もバイザーには必要である。さらに、そのような指導力や引っ張ってくれる存在が求められていることと同時に、【相談できる安心感】や、【人間性の豊かさ】といった、ヴァイジーとの良好な関係性を構築できる人間像を求めている意見も多くあげられた。日常の業務に疲弊した職員を支える役割もバイザーには期待されており、<共感・傾聴・受容>、<相談できる安心感>、<コミュニケーション能力>を基盤に、バイジーの仕事や施設に対して『変革ばかりを求めず、寄り添った意見をくれる』<非コントロール感>の重要性も抽出された。さらに、現場に通じるには【知識や経験の深さ】も必要である。<現場経験>、<知識や経験>の豊富さが求められ、それらは【多職種とも通じる広い視野】が必要とされているところからも見て取れる。『専門職(臨床心理士、精神科Dr、小児科Dr、社会福祉士など)としての視点でアドバイスや相談ができる』というような<専門職としての視点>が求められていることが抽出された。他(多)職種の連携が現場では欠かせない状況があり、そのような視点を現場に持ち込むことができる<人脈>、<広い視野>、<幅広い評価・振り返り>を可能とさせる働きが期待されていると言える。

考察

以上の結果から、スーパービジョンのあり方について、現場について理解してもらったうえで、現場に寄り添う形で、SVをしてもらいたい意向が強いこと、また、施設内での様々な困難に対して対処でき、助言できる専門性とともに、職員の育成を強く意識したSVを求めていることがうかがえた。児童養護施設という生活の場でのSVは、相談業務を中核に据えたSVとは重なり合うところもありながら、生活に対する深いまなざしと、子どもとともに成長できる職員を育てているという教育的機能が求められていることが示唆された。

研究成果の活用・提供予定

今回は、児童養護施設であったが、今後は児童相談所あるいは子ども家庭支援センター(児童家庭支援センタ-)の相談員のSVに関して、データの解析をさらに継続することが必要と考えられる。また、当然のことながら、児童領域に限定せず、ジェネリックなSWへのスーパービジョンの現状と課題を明らかにすることが今後必要となる。 これらの成果の詳細な結果は、研究所ホームページに掲載する予定である。

研究成果物

平成25年度

超高齢団地における安心居住の支援方法に関する実践研究

研究代表者氏名

大学院特任教授 児玉桂子

研究課題

超高齢団地における安心居住の支援方法に関する実践研究

研究結果の概要

大都市における急激な高齢化を先取りするUR滝山団地において、安心居住の支援方法に関する実践研究をURとの連携協定に基づき、滝山団地自治会との緊密な協力のもと進めてきた。2年目の研究成果は以下の4点である。

1.UR滝山団地全住戸を対象とした安心居住へのニーズ調査

URや団地自治会の協力を得て、全住戸(3100戸)を対象に住民の交流や孤独、困りごとなど「あんしんつながりの家」の運営に役立つ項目を中心に調査を2013年12月に実施して、1006件の回答を得た(回収率32.5%)。この調査は、回答者の75%が65歳以上の居住者がいる世帯であること、79.5%が単身および2人世帯であること、情報の少ない分譲居住者が57%を占めることが特徴である。ダイニングカフェたきやまを利用したことがある人は30%あり、単身や高齢者2人世帯で高い利用率であることが示され、開設の目的を果たしつつあることが確認できた。また、日常生活での不安として、単身高齢・2人高齢・3人高齢世帯では、認知症や介護、孤独死への心配が大きいことが示された。日常生活で大変なこととして、調査対象者全体で家計が30%、それに次いで階段昇降が26%上げられた。社会参加をするためには、上下階移動の保障は不可欠であり、ハード的な対応がさらに求められている。また、64歳以下の単身や2人世帯では団地内における社会的交流の希薄さが浮き彫りになり、こうした高齢予備軍へも目を向ける必要性がとらえられた。

今回は基礎統計を中心にまとめたので今後分析を深めるとともに、これを材料に団地自治会等居住者やURの方々と意見交換を進めていきたい。(担当:児玉桂子・菱沼幹男・大島千帆・下垣光・佐藤唯)

2.あんしんつながりの家をフィールドとした実践研究

あんしんつながりの家はダイニングカフェたきやまとこどもラウンジから構成され、自治会が中心となり月から金に昼食と喫茶、土曜は喫茶のみを提供している。菱沼ゼミおよび有志の学生が「学生グループたきゆう」を組織して、開設当初より毎土曜日にカフェでのボランティアを行い福祉実践に取り組んできた。この経験は、サブゼミ論文集に「高齢者の社会的孤立を防ぐためにーあんしんつながりの家と地域住民をつなぐー」としてまとめられている。内容は、団地内の賃貸住宅に居住する単身高齢者への調査やカフェの運営にあたる住民へのヒヤリングから構成され、カフェたきやまでの実践経験を踏まえた貴重な内容となっている。(担当:菱沼幹男・学生グループたきゆう・菱沼ゼミ学生)

3.デイサービスの支援効果を引き出す環境整備に関する実践研究

団地内に整備が予定される生活支援施設としてデイサービスセンターがあげられる。初年度から、2か所のデイサービスセンターにおいて、職員による環境アセスメントや施設環境満足度調査を継続して実施してきた。2年間の研究を通じてデイサービスの支援効果を引き出すには以下のような環境整備の視点が重要であることが明らかになった。

  1. 自宅からデイサービスへの送迎への配慮(6項目)
  2. デイサービスに到着後開始までの配慮(11項目)
  3. プログラム活動への参加(4項目)
  4. デイサービスでの過ごし方の選択(8項目)
  5. 活動成果の作品を発表する場(4項目)
  6. リハビリテーションの利用(4項目)
  7. 入浴サービスの利用(7項目)
  8. 昼食と休憩をとる(8項目)
  9. 帰宅の準備(4項目)
  10. 地域社会との接点を大切にする(3項目)
    (担当:鈴木みな子・児玉桂子)
4.報告書の作成

団地自治会の協力で調査表の配布を無料でできた等の理由から経費の余裕ができ、当初の予定にはなかった以下の2部構成の報告書を作成することができた。第1部「滝山団地における大学・団地自治会・UR都市機構との連携」は、1年目の研究成果を深めた内容であり、少子高齢社会の暮らしの支援に関する取り組みおよび安心・安全の環境づくりに関する取り組み合計7テーマから構成される。第2部「UR滝山団地における暮らしに関する全住戸調査」は前述した内容である。(担当:児玉桂子・菱沼幹男・北場勉・後藤隆・大島千帆・下垣光・廣瀬圭子・鈴木みなこ)

研究成果の活用・提供予定

  1. 滝山団地自治会・団地居住者・URとの公開研究会の開催
    今年度の研究成果に基づく研究会の開催と自治会ニュースを通じた成果の公表を予定している。こうした機会により、居住者等の新たな知識の獲得や意識の変容に寄与することが期待できる。次年度の介護プロジェクトによる研究継続につながる重要な機会となる。
  2. 国土交通省やURへの研究成果の提供
    国やURは住み続けることのできる団地(Aging in Danchi)を政策課題にしているので、滝山団地を直接担当する東日本支社のみでなく、本社やそれを統括する国土交通省住宅局等も福祉の大学が取り組んだ研究成果への関心は高い。児玉が国土交通省UR委員会の委員を務めているので、そうした機会も通して普及に努める。
  3. 学会等での発表
    日本社会福祉学会や学内学会等で研究発表を行う。大学紀要やその他学会誌に執筆する。
  4. 学部・大学院教育への活用
    学部の地域福祉論、福祉環境論、専門演習等、大学院の地域福祉研究等を通じて、居住環境と福祉の連携の重要性に関する教材として取り上げる。大学院博士後期課程の研究テーマとして取り上げる院生もおり、UR滝山団地プロジェクトは教育にも寄与している。

研究成果物

児童福祉施設における援助者支援に関する研究

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 藤岡孝志

研究課題

児童福祉施設における援助者支援に関する研究

研究結果の概要

本研究は、社会福祉施設における援助者支援、特にスーパービジョンの現状と課題を、児童養護施設を例として取り上げて調査し、他領域を含めたスーパービジョン研究の今後の展開を推進するものである。そのためのパイロット研究として本研究は位置づけられる。本研究は、以下の二つの方法によって構成された。

1、面接調査に基づく予備研究

アンケート調査とともに、児童養護施設におけるスーパービジョンのあり方について、グッドプラクティスを実施している施設職員及びスーパービジョンに関して長年関わってきた実践的研究者4名に対して面接調査を実施した。その結果、施設現場におけるスーパービジョンはいまだ十分には確立されていないが、喫緊の課題であるとの認識が現場の中にあること、そのためのスーパービジョン体制の整備が重要であるとの結果を得ることができた。

2、アンケート調査に基づく研究

関東圏内全域のすべての児童養護施設165施設の施設長またはそれに代わる方にアンケートを実施した。 抽出方法;全国の児童養護施設のうち、今回は、関東圏に絞って実施した。実施方法 郵送によって質問紙を送付し、回収した。その結果、児童養護施設38施設から回答を得た。回収率23%である。年度末の繁忙期の調査でもあり、回収率は20%台にとどまった。調査項目 今回の調査にあたって、新たにスーパービジョンに関するアンケート調査を作成した。その中では、スーパービジョン体制の実態と課題に関する調査だけでなく、共感疲労や援助者支援に関する項目も含められた。チェック式の項目9、自由記述式7項目、合計16項目で構成された。分析方法 得られた結果に基づいて、単純集計、及びクロス集計による解析を行った。 結果 スーパービジョンに関する認識は、施設によって大きな開きがあることが明らかになった。また、施設職員の疲弊に関しては、共通の認識があり、施設長や同僚によるスーパービジョンに合わせて、外部の専門家によるコンサルテーションやスーパービジョンに大きな期待があることも明らかになった。施設内で職員の養成をしつつ、現状の養育の質を保持するために、外部からのスーパーバイザーの持つ役割とともに、内部での常駐職員による継続したスーパービジョンが必要であるとの認識も示された。

考察

以上の1,2の結果から、スーパービジョンのあり方について、外部からのコンサルテーション、スーパービジョンとともに、内部での継続的なスーパービジョン体制が必要であることが示唆された。また、ソーシャルワーク・スーパ―ビジョンとケアワーク・スーパービジョンの概念的な整理が必要であることも課題として浮かび上がってきた。職員育成という名のもとに行われてきたことと、ここでいうスーパービジョンがどのように関連し、また、機能していくのかという重層的な問題の設定が必要であり、今後のスーパービジョン研究の課題も改めて示されたと考えられる。

研究成果の活用・提供予定

データの解析をさらに継続することで、スーパービジョンの課題を明らかにすることが今後必要となる。また、本研究の成果は、児童養護施設におけるスーパービジョンの実態に関する研究として、貴重な知見を提供しうるものと考えられる。研修などの折に、このデータを提示し、課題をさらに明確にすることが必要である。

また、本研究がまとまった段階で、協力を得た施設(165か所)に報告書を郵送し、それぞれの施設からのご意見をうかがうことも、今後の研究として必要であると考えられる。

研究成果物

平成24年度

超高齢団地における安心居住の支援方法に関する実践研究

研究代表者氏名

大学院特任教授 児玉桂子

研究課題

超高齢団地における安心居住の支援方法に関する実践研究

研究結果の概要

1.研究の位置づけと研究態勢の構築

UR滝山団地は総住戸3180戸(賃貸1060戸、分譲2120戸)であり、2010年時点で高齢化率41.0%になり、10年ごとに20%以上の高齢化の進展が予測されるまさに大都市の急進的な高齢化を象徴する。2012年は大学とURが連携協定を結び、団地自治会とも協力体制を創りつつ、図1に示す「少子高齢社会の暮らしの支援」と「安全・安心の環境づくり」を実践研究の柱にして、多様な参加者と長期的展望に立った研究体制の構築に努めた。以下は図1に沿って、取り組みの成果である。

2.安心つながりの家での実践活動と効果の検証

5月よりスタートしたコミュニティ・カフェ活動への学生グループ「滝ゆう」の参加(毎週土曜日)と多世代を対象とした交流会開催の実践を行った。安心つながりの家の効果の検証の一環として、開設前と開設後に単身高齢者(211名)に社会関係調査を留め置き調査法により実施した。開設前には67.0%が利用意向を示したが、開設後調査では利用したものは46.2%であった。回答者の約25%は70歳以降に滝山団地に入居であり、また約30%が孤立死の不安を抱くことなども把握された。今後も実践活動と調査から安心つながりの家のより良い運営のあり方について、検討を継続していく。 担当:菱沼幹男

3.暮らしの視点から滝山団地の変遷の分析

賃貸部分の人口構成の変化はURにより詳細に把握されているが、分譲も含めた全体像の把握はほとんどなされていない。そこで、滝山団地の賃貸と分譲から構成される滝山6丁目の人口を東久留米市統計年報により昭和44年から10年ごとにⅠ~Ⅴ期に分類して、他方自治会活動を自治会により作成された40年史を基に8カテゴリーに分類して、人口構造と滝山団地自治会活動の変遷を分析した。第Ⅰ~Ⅱ期は、教育・子ども・公共交通関係などが自治会活動の中心テーマであったが、第Ⅲ期(平成1~10年)ごろから人口が急激に減少して、地域や高齢者問題に関する活動が増加した。滝山団地の自治会活動を研究者の目から整理したことは、自治会や居住者にとり今後の活動につながるエンパワーメントとなり、大変喜ばれた。 担当:北場勉

4.認知症高齢者を理解し、地域で支える(講演会)

滝山団地の平均世帯人数を1.8とすると総人口数は約5700名であり、厚生労働省による推計値によると(2012.9)、団地内には「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ」以上の方が200名以上いる。団地居住者の方々の関心も高いので本年は「認知症高齢者を理解し、地域で支える」のテーマで講演会を実施して、アンケートを行った。アンケートに回答した21名中、85%が60歳以上であり、全員が講演内容は役立つと回答した。今後、認知症になっても住み続けられる団地を目標に調査の実施や支援のあり方を検討する。 担当:下垣光・児玉桂子

5.近隣環境のアセスメント(相談援助演習Ⅲと連動)

ソーシャルワーカーとして地域環境資源に理解を深めるために、キャプション評価法を用いた近隣環境アセスメントを行い、滝山団地周辺の環境の強み・弱みを整理、地図にプロットした。また、団地住戸の見学とURへのヒヤリング等を行い、この情報をもとに滝山団地でデイサービスを展開するとしたらという想定で演習を行った。この成果の一部について、団地自治会と意見交換をした。今後も滝山プロジェクトを活かした演習授業を検討していきたい。 担当:大島千帆・後藤隆

6.デイサービスにおける効果的な支援と環境づくり

滝山団地の将来構想には、生活支援施設の誘致が検討課題とされている。本研究は、それを念頭にデイサービスにおける効果的な支援と環境づくりをテーマとした。デイサービスは介護保険の中で最も普及しているサービスであるが、軽度から重度までの多様な利用者、認知症高齢者の増加、利用時間の長時間化などの課題も多い。

本研究ではこれまで特養など入所施設に適用してきた「6ステップの施設環境づくり支援プログラム」をタイプの異なる2か所のデイサービスに適用する介入研究を行い、支援効果を上げる環境づくりを明らかにすることが目的である。本年度は、環境づくりプログラムのケアと環境への気づきを高める(ステップ1)、キャプション評価法を用いた環境課題の抽出(ステップ2)、課題に基づく環境づくりの計画立案(ステップ3)までを終了した。次年度はこの計画を事業計画に位置付けて、環境づくりの実施(ステップ4)、新しい環境をケアに活かす(ステップ5)、環境づくりを振り返る(ステップ6)を行う予定である。 担当:鈴木みな子・児玉桂子

7.団地の少子高齢化に関する文献の収集と内容の分析

国立情報学研究所のデータベース(CiNii=2012年9月27日)より団地×高齢化、団地×少子化等で検索を行い、294文献を取り上げた。著者作成のキーワード(ない場合にはタイトル)により、大分類や中分類を行った。その結果、団地の高齢化に比べて、少子化に関する文献は10%程度とたいへん少ない。コミュニティのキーワードがつく文献は38%あり、内容は地域交流や支えあいに関するものが多い。生活支援のキーワードがつく文献は25%あり、内容は支援サービスに関するものが多い。収集文献の研究領域は、建築・都市計画系が66%とたいへん多く、福祉・保健分野は10%程度と少ない。

以上から、団地を対象に少子高齢社会の暮らしの支援に福祉をはじめとして多分野から取り組む研究は、まだ少なく貴重であることが明らかになった。 担当:児玉桂子

8.その他
  1. 自立した生活と転倒予防
    年齢とともに転倒のリスクが上がることは知られており、「日本転倒事故予防協会」によると、15~44歳に対して、80歳以上の高齢者が転倒により死に至るリスクは100倍以上といわれる。本年度は転倒リスクに関する文献収集と滝山団地居住者に向けた転倒予防教室の案を作成した。 担当:廣瀬圭子
  2. 団地のリニューアル事業への支援
    URは団地の活性化とその持続のために、安心つながりの家の整備、中層エレベータ設置、屋外環境整備、住戸の少子高齢対応改修、生活支援アドバイザー配置など比較的規模の小さい団地再生計画を進めている。UR等からの要請に応じて、事業への専門的助言を次年度以降に予定している。 担当:児玉桂子・古賀誉章・沼田恭子ほか。
  3. UR住戸を活用した学生のハウスシェアリング
    当初の研究計画に位置付けたが予備調査の結果、2~3年くらい前には女子寮の不足が顕著であったが、現在は空室も見られることからハウスシェアリングへの高い要望は見込まれないため研究を中断している。 担当:児玉桂子

研究成果の活用・提供予定

  1. 滝山団地自治会・団地居住者・URとの公開研究会の開催
    今年度の研究成果に基づく研究会を連続的に開催することは、居住者等の新たな知識の獲得や意識の変容に寄与する。次年度の重要な研究の一部でもある。
  2. 国土交通省やURなど建設サイドへの研究成果の提供
    本研究プロジェクトは初年度でありその研究成果は限定的である。しかし、福祉の専門家の強みは、建設サイドの弱みであり、このような研究成果の提供が期待されている。
  3. 学会等での発表
    日本地域福祉学会や学内学会等での研究発表を行う。

研究成果物

平成22年度

附属子ども学園における親支援プログラムの開発に関する研究

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 藤岡孝志

研究課題

附属子ども学園における親支援プログラムの開発に関する研究

研究結果の概要

本研究は、保護者が子どもの理解を深め、よりよい親子関係を構築すること、及び養育者の孤立を予防することを目的に、ペアレンティング・トレーニングプログラムを策定・実施し、その効果について検討した。合わせて、今後の親支援のあり方についてヒアリング調査をし、かつ、全国の障害児通園施設における親支援の現状に関する質問紙調査を実施した。

1-(1)ペアレンティング・親支援プログラムの実施と効果の検討

月一回の親支援プログラムを通して、日ごろの子どもとのかかわりを見直し、また、親自身の人生脚本を取り上げることで、子育てにおける特徴などを捉えなおした。また、愛着行動評定尺度をしてもらうことで、自分自身の養育行動を客観的にとらえることの意味を検討していった。

1-(2)テキストマイニング法による親支援プログラムのデータ解析

セッションでのやり取りのテープ起こしをし、そこで得られた電子テキストデータをテキストマイニング法によって分析していった。そのことで、参加者によって、特徴的な発語があり、支援のきっかけとして、この方法が臨床的に活用できる可能性が示唆された。

2.親支援・親子支援に関するヒアリング調査

親支援プログラムやアクセシビリティへの配慮などの親支援の方法は、子育て支援と直結していることが、ヒアリング調査でも明確になった。「親支援は、子育て支援そのものである」という考え方を前提にほとんどの施設で親支援が行われており、そのための工夫の蓄積が、もっと、全国で共有されることが必要であろう。本研究がその先駆けになることが期待される。

3.親支援プログラム、ペアレンティング・トレーニングに関する質問紙調査

(1)養育困難さと障害のありようの助長について;養育の困難感によってかえって、障害のありようが助長されていると考える子どもたちの割合が9.7%であり、昨年度の調査も10.9%であったので、1割が助長されている可能性があるとの昨年度の結論をほぼ検証できたと考えられる。(2)養育者の側に子どもの障害を助長していると思われる要因;子育てに関してイライラしている、発達への遅れへの焦りがある、子どもとじっくりと関われない、育児に自信が持てない、養育への満足度が低い、叱責が多い、と続いていた。その他にも、施設ごとの親支援プログラムについてまとめ、その課題などを分析した。親支援の実態が今回の調査で明らかになった。

詳しくは、報告書を読んでいただきたい。

研究成果の活用・提供予定

研究成果については、平成22年度共同研究報告書「附属子ども学園における親支援プログラムの開発に関する研究」(2011年3月)をまとめ、全国の障害児通園施設などの関係機関1000か所にすでに送付した。なお、希望者について今後も送付の予定である。

多領域における協働的子ども支援~ソーシャルワークの可能性を探る~

研究代表者氏名

社会福祉学部 教授 山下英三郎

研究課題

多領域における協働的子ども支援~ソーシャルワークの可能性を探る~

研究結果の概要

ソーシャルワークは包括的なアプローチを特徴とする援助職であるが、わが国においては高齢者・障がい者・児童といった三つの領域に限定した実践が主流を占めてきた。ソーシャルワークが本来有すべき柔軟で全体的なアプローチは、むしろ市民団体の活動に見られるのではないかと考え、主として4つの市民団体に聞き取りを行った。それぞれの団体は独立しており相互の関係はないにもかかわらず、活動の理念や視点はほぼ共通しており、活動範囲も直接支援から制度改革にまで及んでおり、ソーシャルワークでいうところのミクロレベルからマクロレベルのソーシャルアクションまで実践していることが明らかになった。これらの活動はダイナミックであり、まさにソーシャルワークそのものと言っていい。

ソーシャルワーク専門職は、ソーシャルワーク実践の可能性を高めるためには、領域を越えた活動をしている市民団体から学ぶことが多々あるという結論に至った。

研究成果の活用・提供予定

2010年度研究結果については、実習教育研究・研修センター2010年度年報に投稿した。また、日本福祉学会第59回秋季大会(2011年10月)にて発表し、多角的な検討を行う予定である。

さらに今年度は、養成校教員・実習先指導職員と共に2009~2010年度の調査結果に基づいて、統計的データを整理し最終報告書をまとめ、全国の養成校及び本校実習先(施設・機関)に配布し、忌憚のない感想や意見を募る予定である。