灯し、紡ぐ人

#05

あるべき支援を願う心を灯し、紡ぐ
Chapter 01

若い世代のケアラー特有の
課題と向き合う

ご自身が運営されている一般社団法人ケアラーワークス設立の経緯と、活動内容についてお話しください。

大学時代から、若年認知症のご本人とそのご家族のケアに関心を抱いていました。2009年に東京都練馬区で地域活動団体「若年認知症ねりまの会MARINE」を設立。この団体の活動の中で、子ども世代の若いケアラー特有の悩みがあると知り、彼らが若年認知症の親と向き合い、情報共有・課題解決できる場として2012年に発足させたのが「まりねっこ」でした。

ケアラーワークスを設立したのは2022年のことです。世間でヤングケアラーが取沙汰されるようになった頃で、十数年家族ケアに関わってきた経験を広く社会に発信していきたいと考え、法人運営に乗り出したのです。現在、府中市を中心に、若者ケアラー・ヤングケアラーへの相談支援やピアサポート活動、ネットワークづくり、自治体におけるヤングケアラー支援施策の推進や協力、研修の講師派遣等を行っています。

若者ケアラーやヤングケアラーには具体的な定義があるのでしょうか。

法令上の明確な定義はありませんが、日本ケアラー連盟では、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子どもをヤングケアラー、18歳からおおむね30歳までの方を若者ケアラーと定義しています。少子高齢化の進む昨今、中学生の約24人に1人、高校生の約17人に1人がヤングケアラーといわれ、深刻な社会問題となっています。

彼らにはどのような問題点があるのかお聞かせください。

若者ケアラーには、進学・就職・キャリア形成に支障をきたす、仕事と介護の両立が難しい、(結婚していれば)自分の家族とケアする家族の両方の面倒を見なければならないといった問題点があります。

ヤングケアラーの場合、一番の課題は問題が表面化しにくいことです。なぜ表面化しにくいのか。家族のケアを当たり前のものとしてとらえている子どもが多く、大抵の場合、学習・生活面などで困難を感じても我慢してしまうからです。周囲も「家族の面倒を見ているよい子」としかとらえずに、子どものSOSを見過ごしてしまう場合が多々あります。周りの大人が適切なタイミングで声をかける、あるいはヤングケアラーが自ずと悩みを話せる環境づくりが必要だと思います。ヤングケアラーの家族もまた悩みを抱えているケースが多いため、家庭全体への支援も欠かせません。ゆえに、教育・行政・医療・障がい福祉といったさまざまな分野間の連携も重要です。各所を調整するヤングケアラー・コーディネーターの設置も、自治体に推進していかなければなりません。

学びの中で芽生えた信念を灯し、紡ぐ
Chapter 02

家族ケアの重要性に目覚め 研究を通じてより深い実践も

家族ケアの重要性に目覚め 研究を通じてより深い実践も

どのようなきっかけで、現在の道に進まれたのでしょうか。

日本社会事業大学で受講したある講義がきっかけです。先生が、国際会議で若年認知症の当事者の方がスピーチしている映像を見せてくださったのです。日常生活が思うようにいかない悔しさ、支えてくれる家族への感謝、社会の理解不足に対する悲しみなど、自分の思いを赤裸々に訴える姿には、胸にこみ上げるものがありました。以来、若年認知症という病や当事者の暮らしへの関心が芽生え、家族会の活動に参加するようになりました。その中で、ご本人だけでなくケアをするご家族もまた悩みを抱え、ケアを必要としているという現実を知り、自分にできることはないかと考えるようになったのです。視野を広げてくれた大切な授業でした。

大学時代から家族ケアの重要性に注目されていたのですね。その後、現場経験を経て日本社会事業大学の大学院に進学されたと伺っています。進学の経緯と当時のご様子についてお話しください。

すでに大学時代から大学院進学を視野に入れていました。若年認知症の方々やそのご家族の助けとなる制度や仕組みをつくりたかったからです。しかし、現場を知ってこそよりよい研究ができるという恩師のアドバイスを受け、大学卒業後の3年間、認知症専門のデイサービスで働きました。結果的に患者さんやご家族の抱える問題点や、支援制度を充実させる重要性等を再認識でき、この選択でよかったと感じています。

大学院では、若年認知症患者とその家族の地域生活支援をテーマに研究。一方、若年認知症関連のネットワークを全国に広げるNPO法人のアルバイトも並行していました。「若年認知症ねりまの会MARINE」を設立したのもこの頃です。研究との両立は大変でしたが、実践から得た気づきや知識が研究に役立ったり、研究内容が実践に生かせたりと、互いによい影響を及ぼし合っていたと感じます。また、これらの活動から幅広い人脈を築けたのも大きな収穫でした。

家族全体の幸せに馳せる想いを灯し、紡ぐ
Chapter 03

社会の要請と実情に鑑みた
最適な支援を

田中さまの考える、福祉のリーダーに必要な素養とは何でしょうか。

時流を読み、多方面に興味を持って 探求していくことだと思います。ケアラーワークスを設立したのも、ヤングケアラーの認知度が上がってきている昨今の状況を踏まえてのことでした。
また、刻々と変わる時代の変化を恐れずに、トライアンドエラーを繰り返す気概も必要だと思います。

今後の展望について教えてください。

現在、ケアラーワークスは「府中市ヤングケアラープロジェクト」というヤングケアラーとその家族を支援する自治体モデルに参画しています。今後いっそう支援の輪を広げ、必要とされるサービスやサポートを拡充・開発していきます。

家族のケア自体は、日常生活で自然に行われていることです。家事やきょうだいのお世話を楽しみ、家族の役に立つ喜びを感じている子どももいるでしょう。身の回りのことを一人でこなせるようになったり、他者への思いやりの気持ちを持てるようになったりと、ケアを通じて成長できる面も多くあります。

ただ、ケアが過度な負担となり、声を挙げられない、その人らしく生きられない点に問題があるのです。子どもがケアのために自分の人生を犠牲にするのでなく、自由にライフチャンスに手を伸ばせる環境づくりが大切だと感じます。

ヤングケアラー、そして彼らを含めた家族全員がどうすれば幸せでいられるのか。目に見えるものだけを見ようとせず、「声なき声」に耳を傾けて適切な支援を行っていきたい――。そう考えています。

Message

高校卒業後の世界は思った以上に広いもの。日本社会事業大学には、
充実したカリキュラムだけでなく、大学や先輩等が紹介してくれる福祉関連のアルバイトやボランティア、サークル活動などからも学びを深められる環境があります。ぜひ、さまざまな活動にチャレンジしてみてください。
また、熱意溢れる学生が多いのも日本社会事業大学の魅力です。大学時代だけでなく大学院修了後に非常勤講師を務めたときにも、活発に議論する学生たちの姿を目にすることができ、非常に喜ばしく思いました。熱い思いを持った友人たちの存在は、その後の人生の支えとなるはず。ぜひ大学時代に多くの経験を積み、仲間と絆を結んでください。

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