灯し、紡ぐ人

#07

教育・研究の両輪から得た知を灯し、紡ぐ
Chapter 01

多彩な教育指導と
各地域の課題解決に尽力

現在のお仕事内容について、お聞かせください。

母校である日本社会事業大学の教員となり、10数年が経ちました。

私の専門領域は地域福祉です。全学で担当科目を受け持つとともに、ゼミでは3・4年生合同演習を柱とした学びを展開。3年生の時はまだ少し頼りなかった学生が、4年生になって後輩に適切なアドバイスを行えるようになっていく姿には、成長を感じます。

また、当ゼミでは、学生たちがいくつかの研究グループに分かれ、論文集の作成や研究報告会などを行うサブゼミを実施。各々興味のある分野の研究に取り組み、卒業研究に必要な知識を養える大切な機会となっています。

学生には他に、私が研究で関わる地域を訪れる、清瀬市での赤い羽根共同募金の活動に携わるなど、実践を通じて多様な地域福祉の在り方を学んでもらうようにもしています。

一方、教員としての活動とは別に、自治体の福祉計画策定や社会福祉協議会のアドバイザー業務にも携わっています。外部講師として、地域福祉に関するさまざまな研修に招かれることもあります。

東京都や埼玉県内を中心とした多数の地域に関わっており、授業のない日は1日3カ所の地域を訪問することも。複数地域の課題解決に携わることで数々の知見が得られ、類似する問題を抱える他地域へのアドバイスにも役立っています。多彩な地域との関わりを持つことによって、実践現場の課題に即した教育につながるとも感じています。

万人の幸せへの願いを灯し、紡ぐ
Chapter 02

幼少期からの願いを 体現できる道が地域福祉だった

幼少期からの願いを 体現できる道が地域福祉だった

そもそも地域福祉を専門にしようと考えたきっかけは何だったのでしょう。

幼い頃から、周囲の幸せに敏感でした。他人が困っていると自分も喜べない。だからみんなに幸せでいてほしかった。子ども心に「自分にできることはないか」といつも考えていました。そこで、高校時代の進路検討時に思い浮かんだのが、社会福祉の道だったのです。

地域福祉の存在を知ったのは、日本社会事業大学に入学してからです。幼少期から抱いていた万人の幸せへの思いと、地域全体を見る(支援の対象者を限定しない)地域福祉の考え方には重なる部分が多く、興味を持ちました。そこで、地域福祉の第一人者である大橋謙策先生のゼミに入り、指導を受けました。

幼い頃から抱いていた思いを一番昇華できる分野が、地域福祉だったのですね。現在に至る経緯を教えてください。

卒業後は社会福祉協議会に入職。自治会や民生委員、ボランティアの方々と協働し、多くの学びを得る日々でした。しかし、理想と現実のギャップに悩むようになりました。行政や社会福祉協議会の力にも限界があり、細部まで支援の手が回らないこともあると知ったからです。

たとえば「地域支援」の一環として、住民の手によって孤独や孤立をなくしていく居場所活動(高齢者サロンや子ども食堂など)がありますが、そうした場に行くことができない方もいます。誰にも気づかれずひっそりと苦しんでいる方々にこそ目を向けなければならないのですが、充分にフォローできていない場合もあります。

彼らのセーフティネットとして、福祉専門職等が個別に訪問し関わっていく「個別支援」もありますが、その頻度には限界があり、地域の方々との連携が十分でないこともありました。

地域の居場所を創出する活動等に取り組む「地域支援者」と個々のケースに向き合う「個別支援者」が密に連携を図れれば、より多くの方が孤独や孤立のない暮らしを送れるのではないかと思うようになりました。

これがきっかけとなり、よりよい方策を考えたいと進学したのが日本社会事業大学の大学院でした。ここでコミュニティソーシャルワークと出会ったことが、大きな転機となります。

ちょうど大橋先生が、日本の地域福祉実践を変えようと、イギリスで打ち出されたコミュニティソーシャルワークの概念に注目し始めたときでした。

「一人ひとりの生きづらさに向き合いながら、地域の力が高まるよう支援していく」というコミュニティソーシャルワークの考え方と社会福祉協議会時代に感じていた問題意識がつながり、目の前の霧が晴れるような感覚がありました。大学院在籍中は、大橋先生が理事長を務めるNPO法人日本地域福祉研究所の事務局員となり、多くの研鑽を積ませていただきました。

その後、高齢者福祉の現場で働く中で、「個別支援」と「地域支援」の連携を促進する仕組みづくりの必要性とともに、人材育成の大切さを実感しました。

そこから大学教員となる道を選び、大学院博士後期課程にも進学。学生への教育や現任者研修に携わりながら、コミュニティソーシャルワークの研究を深化させてきました。

複数の大学での経験を経て日本社会事業大学に教員として戻ってきたのは、2010年です。大橋先生の後任として地域福祉を担当し、「日本社会事業大学のよき伝統を次の世代につなげ、新たな時代の地域福祉を拓いていく」という決意で、日々過ごしています。

永年の恩師の姿を胸に灯し、紡ぐ
Chapter 03

一人ひとりの幸福に向けて適切な支援を
広い視野で実行できる姿勢

母校や大橋先生には、並々ならぬ思いがあるのですね。大橋先生とは大学時代から約30年にわたり、親交があると伺っています。一言で言い表すならば、どのような存在なのでしょうか。

生涯の「師」であると思います。

コミュニティソーシャルワークと出会えたのは先生のおかげです。人生で道に迷ったときには、いつも厳しくも温かいアドバイスをくださいました。大学時代に先生から受けた指導方法は、今の私の学生指導のベースとなっています。専門的な知見に限らず幅広くアドバイスいただいたことは、学内外での仕事にも大いに役立っています。

理想とされる福祉のリーダー像についてお聞かせください。

「よりよき実践」を探求していく人こそ、福祉のリーダーだと考えます。ここで言うリーダーとは、必ずしも役職者を指すわけではありません。広い視野を持ち、多くの人が幸せになれる方法を考えて生み出していける人を指します。私自身そうなれるよう努めていますし、学生にもそうあってほしいです。

学生に必ず伝えているのは「自分の支援欲求を満たすためだけに行動しない」ということ。「誰かのために」と力を尽くすことは素晴らしいのですが、相手に負い目を感じさせてはいけません。その人自身が問題に対処できる力を持てるようになる支援こそ、ソーシャルワークの根幹たるもの。支援の目的を間違えないように、と伝えています。

今後の展望をお聞かせください。

教員として後進の指導にあたるとともに、地域福祉の専門家として「個別支援」と「地域支援」の連携を促進するシステムづくりにいっそう注力したいと考えています。2014年からは、「個別支援」と「地域支援」の一体的な展開による、家族支援に向けた事例検討ツールの開発・改良を重ねてきました。さまざまな地域の実践者との協働の成果であり、全国各地で活用していただいています。

教育者・研究者としての根底にあるのは、いつも万人の幸せを願う気持ちです。幼い日に抱いた「誰かのために」という思いを絶やさず、今後もよりよき実践を積み重ねていきます。

コミュニティソーシャルワーク事例検討フレーム(9マスシート)・・・困難を抱える地域住民及びその家族の生活問題を可視化し、個別支援と地域支援を一体的に検討するためのツール。本人・家族・地域・支援者の強みを活かし、どんな社会資源を活用・創出すれば問題を解決できるか、9つのフレームを基に検討する。

Message

日本社会事業大学では、福祉系のアルバイトやボランティア等での経験と大学での学びを結びつけ、リアルなディスカッションを繰り広げる学生たちの姿を頻繁に目にします。中には被災地支援活動など「誰かのために」という熱い思いを具体的なアクションにつなげる学生も。大学全体に彼らのチャレンジを見守る優しい雰囲気があるのも、本学の魅力です。学生時代に築かれた盤石なつながりは、卒業後も人生の支えとなってくれるでしょう。

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